プロジェクト紹介


  ラオスのビール工場の省エネルギー事業とCDM
 

 ◎調査実施の背景

 地球温暖化対策のために、途上国でのエネルギー消費を節約して炭酸ガスの排出量を減らすためにわが国が協力するというプロジェクトである。このプロジェクトは2002年度に当社が中心となって新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)から受託したものであり、途上国における中規模工場の省エネのモデルケースを目指した。

 炭酸ガスが大気中に増加すると温室効果によって気温が上昇する。最近、世界各地で発生している異常気象はこの地球温暖化が大きな原因と考えられるようになってきている。このため、地球規模で石油や石炭の消費を減らして炭酸ガスの発生を抑えることが必要になっている。

 わが国では生産合理化の一部としてエネルギーの節約はどこの工場でも行われているが、途上国では一般に設備が旧式であり、またエネルギーに詳しい技術者が少ないため省エネルギー活動は非常に遅れている。このため、今後エネルギー消費が急速に拡大する途上国での省エネの推進を今から進めることが世界全体として非常に重要なのである。

 このプロジェクトで調査を行ったラオスのLao Brewery社はビアラオというブランドのビールを生産している。ビールを製造するためには水と麦芽とホップをまぜて、大きな釜に入れて加熱するというプロセスが必要であり、ここで大量の熱を消費する。Lao Brewery社の工場では重油ボイラーでつくった高温蒸気を使って加熱を行っているが、わが国の工場と比較して重油消費量が多い。ビアラオはラオス国内では大変人気があり、同社の生産量は毎年10%近い伸びを示している。最近ではコンクールで金賞をとるなど、アジアで最高のビールという評判も出て、さらに売れ行きを伸ばしている。このように業績は好調であるが、省エネルギーについてはこれまでほとんど手をつけていなかったのである。


Beerlao ビアラオ






ビアラオ工場の様子


重油ボイラー設備


蒸気配管系統


◎調査結果と提案内容


 
省エネの方法は多数考えられる。このなかで比較的簡単に導入できるものは近い将来Lao Brewery社が独自に実施できるであろう。重要なことは、効果が大きいが技術的に複雑であり、投資額も大きな方法について、わが国の専門企業がその工場の実情に合った適切な助言を与えて実現させることである。

 このような考え方から、煮沸後に釜から出てくる蒸気を高性能ヒートポンプで再圧縮して加熱し、煮沸に再利用するという方法(Vapor Recompression)を重点的に検討した。この方法はわが国の一部のビール工場で導入されており、ボイラーの重油削減効果は大きい。しかし、その反面、ヒートポンプ駆動用の電力消費が大きいという難点がある。しかし、ラオスでは電力はすべて国内の水力発電所でつくられているため、工場内での重油消費が減る代わりに電力消費が増えて、結局発電所での燃料消費が増えるという心配はないのである。また、ラオスの電気料金は非常に安いため、ヒートポンプ用の電力コスト負担も大したことはない。このようにLao Brewery社の場合、非常に条件に恵まれている。当社で行った分析によれば、この方法で省エネを行えば大きなメリットが期待できることが明らかとなった。

 当社の調査結果を受けて、Lao Brewery社ではVapor Recompressionシステムの導入に向けての社内検討チームを設け、導入に向けて準備作業を開始した。最近の原油価格の上昇から省エネのメリットがますます大きくなっているため、技術導入実現の可能性は非常に高まっている。わが国で開発された省エネ技術が条件に恵まれた途上国に移転され、地球環境問題まで含めた大きな効果が発揮されることが期待される。


◎CDM案件形成と炭酸ガス削減メリットの取得


 ご存知のようにわが国は「京都議定書」によって、2008年から2012年までの間に、1990年と比較して炭酸ガスなどの発生量を6%低下させなければならない。ただし、わが国企業の協力によって途上国で炭酸ガスが減少した場合には、わが国の国内で削減した分に含めることができる。この手法はClean Development Mechanism=CDM と名付けられている。NEDOが行っているこのような調査もCDMプロジェクトを発掘し、わが国の国際公約を果たすことに役立てようというねらいがある。

 Lao Brewery社は当社の提案に沿ってVapor Recompressionシステムなどの省エネ技術を導入することを2005年末に正式に決定した。それまで当社ではLao Brewery社に対して、この事業をCDMプロジェクトとして国際機関に承認してもらい、将来、認定を受ける炭酸ガス削減メリットを購入したいという申し入れを行っていたのだが、この決定を受けていよいよCDMの事業計画書(Project Design Document=PDD)を完成させ、本格的なCDM手続きを開始することになった。このPDDは公式文書であるため、細かな様式や作成のルールが決まっており、何度も書き直す結果となったが、NEDO調査後、3年間にわたってLao Brewery社のトップと話し合いを続けてきた苦労が報われようとしているわけで、当社の真価を世に問う事業として歯を食いしばってがんばった。
の後、PDDは2006年4月にインターネットで公開され、また翌5月には国際機関が認定した審査官による現地調査が行われた。ここまでは順調であったと言えるだろう。


CDMプロジェクトの審査風景

 
現地では、省エネ設備の設置工事は順調に進み、完成時期である2006年10月が近づいてきたが、肝心なラオス政府のCDM事業承認がなかなか得られない。工事完成までに処理しなければ失格ということではないのだが、焦りは募るばかりである。遅延の理由は、ラオス政府としてもCDMの国内第1号であるため、どのように審査したらよいのかわからず事務処理が停滞していたのである。このため、当社ではラオス政府のアドバイザーの役割まで引き受け、工場周辺住民を含めた関係者の会議を2006年11月に開催してもらうようお膳立てした。こういった予想外の難問が次から次へと出てくるのであるが、ラオスの人々は本当に素直で、「地球温暖化対策に少しでも貢献したい」という気持ちで取り組んでくれるので、当社も苦労のし甲斐があったというものである。

 
とにかく、最後はドタバタであったが2007年1月にラオス政府の承認をいただき、さらに2月にはわが国の経済産業省からも承認をいただくことができた。わが国で承認を得たプロジェクトとしては118番目であった。
→プロジェクトリスト
) その後、正式に国際機関に登録申請し、2007年4月にようやく登録できた。ヤッター!!! Banzaaaaii (^^)/
当社の活動を支援してくださった方々に厚く御礼申し上げる次第である。

 CDMとして登録されているプロジェクトはまだ少ないので、当社としてはよくここまで漕ぎ着けたと感慨深い。今後、10年間で約3万トン相当の炭酸ガス削減クレジットを取得できる予定である。2007年6月にビアラオの工場を訪問したところ、重油の消費量は計画どおり20%以上も減っているとのことで、関係者は大満足だった。



堂々完成したVRC装置


Lao Brewery 社とのCDM契約締結(2008,.8)


◎カーボンオフセットへの活用

 
このCDMプロジェクトはわが国の省エネ技術が途上国に移転された成功例として注目に値するものと考えている。得られるクレジットはわが国が必要としている量と比べればわずかなものであるが、CDMが目指す理想である「途上国の持続可能な開発」に貢献した「純度の高い」クレジットであると言えるであろう。当社としては、こういった良質なクレジットを、カーボンオフセット(炭酸ガス相殺)を行いたいという希望を有する環境意識の高い企業や団体に活用していただくことで、国内にもっとカーボンオフセットの動きを広げていきたいと考えており、またその売上金は途上国における太陽発電の普及などに投資していきたい。

→ カーボンオフセット事業


◎ap bank fes '08 でのオフセットに採用されました

 
2008年7月19日から21日まで開催されたap bank 主催の野外コンサートap bank fes '08(於 つま恋 静岡)は観客動員数が延べ8万人以上であった。ap bank は環境問題に関心を持っているアーティストたちが設立した団体であり、このコンサートは「eco-reso(エコ・レゾ)」=エコ意識の共振・共鳴 をテーマに2005年より開催されていて、たくさんの人々が、音楽を気持ちのよい場所で楽しみながら、環境問題をより身近に、より前向きに考える事ができるイベントを目指している。2008年のコンサートでは大規模なカーボンオフセットにチャレンジすることになり、観客がコンサート会場への往復に利用した交通機関による炭酸ガス発生量を計算し、その量に見合う炭酸ガスクレジットを購入してオフセットすることとなった。オフセットされる炭酸ガス量は軽く2000トンを超えるという、ひとつのイベントとしてはこれまでで最大規模のオフセットプロジェクトである。このプロジェクトは音楽ファンの若者たちの記憶に残り、いずれわが国の社会全体にこういった動きが広がっていくきっかけになることだろう。まさに歴史に残るオフセット事業であり、そのチャレンジ精神に拍手である。

 当社はap bankの活動には以前から注目していたが、インパクトの大きなオフセットをやりたいという当社の願いが通じたのか、
この
fes '08 のカーボンオフセットで購入するクレジットについて、この「ビアラオのCER」を活用していただくことになった。いよいよ、当社に出番が回ってきたのか。よっしゃー!!! 
もう前進あるのみである。


◎洞爺湖サミットのオフセットにも採用されました

 
よい流れになってくると物事は予想外の展開をする。このプロジェクトが2008年7月に開催されたG8北海道洞爺湖サミットにおけるカーボンオフセットのクレジットを提供する3つのプロジェクトのひとつとして採用されたのである。この首脳会議は2050年までに温室効果ガスの排出量を世界全体で半減するという目標を決めた歴史に残る重要な会議であり、それに役立つことができたのは大変な名誉である。


カーボンクレジット取得までの道のり

 
当社ではCDMとして認定された2007年4月から2008年3月までの約1年間における省エネ効果を算定し、それを正式なクレジット(CER)として認定し、発行してもらうための手続きを2008年4月から開始していた。半年ぐらいでCERがいただけるはずと思い、そのクレジットをオフセットに提供すればよいと考えたからである。しかし、このクレジット取得は大変に難しい作業だったのである。
 とにかく、すべてのデータの根拠や精度を示さなければならない。ビール製造に使った重油の比重、温度膨張率や発熱量の数値はいつも一定ではない。あるいは重油消費量やビール生産量の測定機器の誤差の証明なども求められる。たしかにこういったデータがないとどれだけ炭酸ガス発生量が減っているかを正確には説明できないのである。水力発電のように発電量をメーターで計って記録すれば、あとは計算できるというような簡単な話ではない。しかも相手はラオスののんびりしている人たち。問い合わせても、そんなデータはありませんという返事が返ってくることばかり。いやはや大変なプロジェクトを作ってしまったなと大いに後悔した。しかし、ここであきらめないのが当社のポリシー。難しいからやってやろうということで、いろいろな関連データを集め、それを組み合わせて間接的に証明するという手法でがんばったのだが、最終的にこの検証作業に2年かかってしまい、最初のクレジットとなる2,168トンのCERを入手したのは2010年5月であった。ヤレヤレ。NEDOの調査を始めてから8年以上である。オフセットを完了するために待っていただいたAP BANKさんや洞爺湖サミット事務局(外務省)にはクレジットをお渡しするのが大幅に遅れてしまい、大変ご迷惑をかけてしまった。この経験をもとに次回は作業期間の短縮に努めていきたい。七転び八起きである。